米国が欧州でカットされた天然ダイヤモンドへの輸入関税適用を除外する動きが見られた。約6カ月間にわたり課されていた10%の関税が撤廃されたことで、欧州最大のダイヤモンドカットセンターであるアントワープを中心に業界全体が恩恵を受ける形となった。この動きの背景には、複雑な米国通商政策の変遷と、ダイヤモンド業界による粘り強いロビー活動がある。
適用除外に至るまでの経緯
そもそも欧州産天然ダイヤモンドが米国の輸入関税から最初に除外されたのは、2025年9月のことだった。アントワープ・ワールド・ダイヤモンド・センター(AWDC)と欧州委員会による協議・ロビー活動を経て実現したもので、その根拠となったのは「米国国内にはダイヤモンドの採掘産業も研磨産業も存在しないため、欧州からの輸入から守るべき国内産業がない」という点だった。
しかし2026年2月、この適用除外は一時的に効力を失った。米国連邦最高裁判所がトランプ大統領による相互関税措置(IEEPA:国際緊急経済権限法に基づく)を違法と判断したことがきっかけだった。その後、米国政府は通商法第122条に基づく一般輸入課徴金(10%)を新たに導入し、これが欧州産研磨ダイヤモンドにも適用されることとなった。
Section 301の適用と今後の焦点
通商法第122条に基づく一般課徴金が失効した後、米国政府は新たな関税の法的根拠として通商法第301条(Section 301)を採用した。この条項は、強制労働に関連した輸入を防ぐための十分な措置を講じていない国に対して関税を課すことができるもので、期限や最大税率が設定されていないため、長期的な通商措置となりうる点が業界内で注目されている。
米国通商代表部(USTR)によれば、欧州連合(EU)は現時点で強制労働に関する十分なセーフガードを持たないと見なされている。EUの強制労働規制は2027年12月までに完全施行される予定であり、それまでの間はリスクが残る形となっていた。
AWDCの主張と適用除外の根拠
こうした状況のなか、AWDCは天然ダイヤモンドがSection 301の対象となるべきではないと一貫して主張してきた。その理由として挙げられたのは、ダイヤモンド業界がすでに高度に規制された産業であるという点だ。
- ダイヤモンドの産地確認システムが既に整備されている
- デュー・ディリジェンス(適切な注意義務)に関するコンプライアンス体制が機能している
- 米国国内には保護すべき採掘・研磨産業が存在しない
- 2025年9月の適用除外の理由が依然として有効である
「2025年9月に合意された適用除外の理由は、今日でも完全に有効です。米国ではダイヤモンドの採掘も研磨も行われていない。欧州からの輸入から守る必要のある国内産業は存在しないのです」― AWDC CEO カレン・レントメースタース
ベルギーは2024年に研磨ダイヤモンドを米国へ21億ドル相当輸出しており、アントワープが欧州における最重要ダイヤモンド取引・研磨拠点であることが改めて浮き彫りとなった。今回の適用除外継続は、こうした取引規模を維持するうえでも大きな意味を持つ。
ベルギーは2024年、研磨ダイヤモンドを21億ドル相当、米国へ輸出している。
日本市場への示唆
今回の米国の動向は、日本の宝石業界にとっても無関係ではない。日本はアントワープやベルギー経由でカットされた研磨ダイヤモンドを大量に輸入しており、欧米間の通商政策の変化は間接的に日本への供給コストや流通ルートにも影響を与えうる。
また、Section 301のような強制労働対策を軸とした通商措置の世界的な広がりは、日本の輸入業者や宝石商にとっても対岸の火事ではない。日本でも近年、サプライチェーンの透明性やESG(環境・社会・ガバナンス)への対応が求められる場面が増えており、産地証明や適正調達に関する取り組みを強化しておくことが、将来的な規制リスクへの備えになるだろう。
さらに、欧米間の関税交渉が長期化・複雑化する傾向は、ダイヤモンドの国際価格や流通コストの不確実性を高める要因となる。日本の宝石業界関係者は、こうした通商環境の変化を継続的にウォッチしておくことが重要だ。
まとめ
欧州産天然ダイヤモンドへの米国輸入関税適用除外は、AWDCによる粘り強いロビー活動と、ダイヤモンド業界が持つ既存の規制・管理体制の信頼性が評価された結果といえる。約6カ月間続いた10%関税という重荷が取り除かれたことで、アントワープを中心とした欧州ダイヤモンド産業は改めて安定した対米輸出環境を取り戻した形だ。
一方で、Section 301という期限のない通商措置が今後の貿易環境に与える影響は引き続き注視が必要であり、EUの強制労働規制が完全施行される2027年12月以降の動向も焦点となる。産地の透明性と適正なコンプライアンス体制が、グローバルなダイヤモンドビジネスの競争力を左右する時代が続いていくだろう。
元記事
Natural Diamonds from Europe Exempt from US Import Tariffs(Rapaport)