デビアスの親会社アングロ・アメリカンが、同社の保有するデビアス株式(85%)の売却交渉において、複数の入札者が依然として存在すると明らかにする場面があった。長引いてきたダイヤモンド市場の低迷を背景に複雑化した売却プロセスは、2026年末を目処に最終局面を迎えつつある。
「独占交渉は行っていない」──CEOが語る売却の現状
アングロ・アメリカンのCEO、ダンカン・ワンブラッドは複数のビジネスメディアのインタビューに応じ、デビアスの売却プロセスに関する最新状況を明かした。特定のコンソーシアムとの独占交渉には入っていないとし、現時点でも「複数の入札者が存在する」と述べている。
この発言の背景には、元デビアスCEOのギャレス・ペニー氏が主導するコンソーシアムとの間で、約10億ドルの売却交渉が進んでいるとする報道があった。ワンブラッドCEOはこの具体的な金額についてのコメントは避けつつも、売却プロセス全体が「最終段階に近い」との見方を示した。
「現時点では、いかなる特定のコンソーシアムとも独占的な交渉は行っていない。プロセスには複数の参加者がいる。」──ダンカン・ワンブラッド(アングロ・アメリカンCEO)
売却を難しくした「ダイヤモンド市場の低迷」
ワンブラッドCEOはブルームバーグのインタビューの中で、この売却プロセスを「長い」ものと表現し、ここ数年のダイヤモンド市場の状況が「多くの複雑な問題」をもたらしてきたと振り返っている。天然ダイヤモンド市場はラボグロウンダイヤモンドの台頭や中国需要の伸び悩みなどを受けて、世界的に厳しい局面が続いてきた。
それでも「大きな進展を遂げており、今はプロセスの終盤に差し掛かっている」と前向きな見通しを示した。一方で、「今はまさに繊細な段階であり、多くの当事者が一堂に集まり、合意し、正式に署名しなければならない」とも述べており、最終合意にはなお慎重な調整が必要な状況が続いている。
株式市場への上場は断念──「戦略的パートナー」を優先
アングロ・アメリカンはデビアスの上場(IPO)という選択肢を事実上断念したことも改めて確認した。ワンブラッドCEOはアナリスト向けの電話会議でこの点に言及し、その理由として以下の点を挙げている。
- 現時点では市場にデビアスの上場を受け入れる「キャパシティ(余力)」がないと判断した
- 売却プロセスにおいて「深く戦略的な性質を持つパートナー」から実質的な関心が寄せられていた
- IPOよりも戦略的な事業売却の方が、デビアスの長期的な経営基盤にとってより適切と判断した
こうした判断は、近年の株式市場における資源・鉱業セクターへの投資家の慎重姿勢とも符合する。特にダイヤモンド業界は市況の不透明感が続いていることから、純粋な市場評価に依存するIPOよりも、業界をよく理解する戦略的投資家への売却の方がリスクを抑えられるという考え方だ。
日本市場への示唆
デビアスの売却プロセスは、日本の宝石・ジュエリー業界にとっても他人事ではない。デビアスはサイトホルダー制度を通じて世界のダイヤモン原石市場を長年にわたり主導してきた企業であり、その経営体制の変化は、原石の調達構造や価格形成に影響を与える可能性がある。
新たなオーナーが「戦略的パートナー」型の企業や投資家グループとなる場合、デビアスの販売方針やサイトホルダーとの関係性が見直されるリスクも考えられる。日本の宝飾業界関係者としては、誰がデビアスの新たな筆頭株主となるかを注視しておくことが重要だ。
また、売却プロセスの長期化そのものが示すように、天然ダイヤモンド市場の先行きに対する不確実性は依然として高い。消費者の価値観の多様化や、ラボグロウンダイヤモンドの普及が進む中、天然ダイヤモンドの希少性や産地ブランドをどう訴求するかは、日本のジュエラーにとっても継続的な課題となっている。
まとめ
アングロ・アメリカンによるデビアス株式(85%)の売却プロセスは、複数の入札者が存在する中で最終段階を迎えつつある。IPOという選択肢は退けられ、戦略的パートナーへの売却が優先されている状況だ。ワンブラッドCEOは2026年末までの合意成立に向けて「良い方向に進んでいる」との認識を示しており、世界最大のダイヤモンド企業の新たな船出がいよいよ視野に入ってきた。今後の動向は、世界のダイヤモンド流通構造に大きな影響を与えることから、業界全体で引き続き注目が集まりそうだ。
元記事
De Beers Still Has ‘More Than One’ Bidder, Anglo Says(Rapaport)