インドが海外の原石販売業者を対象に15年間の税制優遇措置を盛り込んだ法案を可決し、ダイヤモンド業界に大きな転換点が訪れている。世界の原石取引をインド国内に呼び込むことで、研磨・製造から輸出まで一貫したバリューチェーンの確立を目指す動きだ。長年にわたり世界の研磨加工を担ってきたインドが、今度は「取引の場」としての地位確立に本腰を入れている。
インドが打ち出した15年間の税制優遇措置とは
インド政府が可決した新法は、特別通知区域(SNZ:Special Notified Zone)内で原石ダイヤモンドを販売する海外企業を対象に、2026年10月1日から2041年3月31日までの約15年間にわたって法人税の課税対象から除外するという内容だ。インド宝飾品輸出振興評議会(GJEPC)によれば、この優遇措置は幅広いプレイヤーをカバーする。
- 鉱山会社(マイナー)
- ブローカー・アグリゲーター
- テンダー・オークション運営者
- サイトホルダー(デビアスの契約顧客など、原石を仕入れて転売する業者)
対象となる取引は、ムンバイのバーラト・ダイヤモンド・ブルース(BDB)やスーラト・ダイヤモンド・ブルース(SDB)といったSNZ内で行われたものに限られる。原石販売から得た収益は、その課税年度における企業の総所得から除外され、税負担が実質的にゼロになる仕組みだ。さらに、一定の情報開示義務を満たすことが条件とされている。
GJEPCが強調する「確実性」の意義
GJEPC会長のキリット・バンサリ氏は、この法律の意義についてこう語った。
「インドがグローバルな原石取引ハブになれなかった理由は、能力でも規模でもなく、”確実性”の欠如だった。15年間の法定免税措置は、その疑念を完全に払拭する。世界のダイヤモンドの14個に1個はインドで研磨されている。この法律により、原石取引から製造・研磨・ジュエリー輸出に至るバリューチェーン全体をインドに集約できる。」
インドはすでに世界で流通するダイヤモンドの約93%を研磨・加工している国だ。しかしこれまで、原石の取引拠点としてはベルギーのアントワープやアラブ首長国連邦のドバイが主導権を握ってきた。今回の措置は、その勢力図を塗り替えようとする大きな政策的意思の表れと言えるだろう。
ナミビアとの直接取引交渉——産地国との関係強化
法律の可決を受け、ナミビア政府の上級代表団がインドを訪問し、直接的なダイヤモンド取引の可能性を探る協議が行われた。インドとナミビアの間では、両国間の直接取引を促進するための覚書(MoU)締結に向けた交渉が進んでいるという。
GJEPCのダイヤモンドパネルでコンビナーを務めるアヌープ・メータ氏はこの動きについて、「インドの製造業者、とりわけ中小企業(MSME)が、海外調達のコストや煩雑さを経ずに高品質の原石に直接アクセスできるようになる」と前向きな見方を示した。
「この新政策により、ナミビアのダイヤモンド取引のより大きな割合がインドに直接流入することを確信している。」(アヌープ・メータ氏)
ナミビアはアフリカ有数のダイヤモンド産出国であり、デビアスの現地法人ナミダイヤ(Namdeb)が重要な役割を担う。これまでナミビア産の原石はアントワープやドバイを経由してインドへ届くケースが多かったが、MoU締結が実現すれば、産地からインド国内の取引拠点に直接供給されるルートが確立される可能性がある。
日本市場への示唆
日本の宝飾業界にとって、この動きはサプライチェーンの構造変化という観点から注目に値する。これまで日本の輸入業者やジュエラーは、研磨済みダイヤモンドをアントワープやニューヨーク、イスラエルなどの主要市場から仕入れるルートが一般的だった。インドが原石取引の拠点として台頭すれば、研磨石の供給元としてのインドの存在感がさらに増すことが予想される。
価格競争力の面でも影響が出てくる可能性がある。インド国内でのバリューチェーンが一本化されることで、中間コストが削減され、インド産研磨石の競争力がさらに高まることが考えられる。一方で、取引の透明性や原石の産地証明(キンバリー・プロセス)への対応など、コンプライアンス面での動向も引き続き注視が必要だ。
長期的には、ダイヤモンド取引の重心がアジアへシフトする流れが加速する可能性があり、日本の業界関係者にとっても調達戦略やパートナーシップのあり方を再考するきっかけになりうる動きと言えるだろう。
まとめ
インドは今回の15年間の税制優遇措置により、世界最大の研磨加工国から「グローバルな原石取引ハブ」への転換を明確に宣言した。BDBやSDBを舞台に、マイナーからサイトホルダーまで幅広い海外プレイヤーを誘致しようとするこの政策は、ダイヤモンド業界の地政学的な勢力図を塗り替える可能性を秘めている。ナミビアとの直接取引交渉に見られるように、産地国との関係強化も着実に進んでおり、インドを中心とした新たな取引エコシステムの形成は今後数年で加速していくと見られる。
元記事
India Passes 15-Year Tax Exemption for Overseas Rough Sellers(Rapaport)