サザビーズのニューヨークオークションで、慈善家ポーリン・カルピダスの個人コレクションが競売にかけられる場面があった。目玉となったのは、350万ドルの上限推定価格が付けられたJARのダイヤモンド&カルセドニーリング。著名デザイナーの作品70点が一堂に会する、宝飾業界屈指の注目オークションだ。
慈善家ポーリン・カルピダスとは——コレクションの背景
ポーリン・カルピダスは、ギリシャの海運王コンスタンティノス(通称”ディノス”)・カルピダスの妻であり、社交界の著名人かつ慈善活動家として知られる人物だ。彼女のジュエリーコレクションは単なる個人の嗜好にとどまらず、20世紀を代表する宝飾デザイナーたちの傑作を網羅したアーカイブとも言える内容だった。
サザビーズはオークション開催に先立ち、パブリックエキシビションを設けてコレクション全体を一般公開する機会を設けた。競売前に作品を実際に目で確かめられるこうした場は、コレクターだけでなく宝飾愛好家にとっても貴重な機会となった。
コレクションの目玉——JARと名ブランドの競演
最大の注目作:JARのダイヤモンド&カルセドニーリング
コレクションの筆頭として位置づけられたのが、JARによるダイヤモンド&カルセドニーリングだ。中央に配されたカラーダイヤモンドが、まるで氷に閉じ込められたように見えるという幻想的なデザインが話題を集めた。上限推定価格は350万ドルと、このセールで最高額のロットとなった。
「カラーダイヤモンドが氷の中に閉じ込められたように見える」——サザビーズによるJARリングの表現
JARとは、パリを拠点に活動するジョエル・アーサー・ロゼンタールによるジュエリーブランドで、世界でも屈指の希少性と芸術性を誇る。一般への販売をほぼ行わず、選ばれた顧客にのみ作品を提供するスタイルが、その神秘性と価値をさらに高めている。
その他の主要ロット
コレクションにはJAR作品が計3点含まれており、それぞれ異なる素材とスタイルで宝飾史における同ブランドの多彩さを示している。また、スザンヌ・ベルペロン、ブシュロン、ヴァン クリーフ&アーペル、ブルガリ、カルティエといった錚々たるブランドの作品も出品された。
- JAR ダイヤモンド&バサルトリング(1990年):上限推定価格65万ドル
- JAR サファイア&プラチナリング:推定価格30万〜50万ドル
- JAR フローラルペンダントネックレス:上限推定価格35万ドル
- カルティエ ダイヤモンド・エメラルド・オニキスブレスレット(1925年頃):推定価格20万〜30万ドル
- スザンヌ・ベルペロン アクアマリン&ダイヤモンドネックレス(ブローチ兼用):上限推定価格25万ドル
カルティエのブレスレットは1925年頃の作とされ、アール・デコ時代の美意識を体現した一点だ。またJARのネックレスはパドロック型のペンダントにサファイアとダイヤモンドを配しており、角度によってハート形に見えるという遊び心あるデザインが特徴的だった。
日本市場への示唆
今回のカルピダス・コレクションのような大型オークションは、日本の宝飾市場にとっても無縁ではない。JARはその閉鎖的な販売スタイルゆえに日本国内での流通はほぼ皆無だが、オークション経由での入手は数少ない正規ルートのひとつだ。国内の富裕層コレクターや宝飾商にとって、海外オークションへの参加はJAR作品を取得する貴重な機会となっている。
また、スザンヌ・ベルペロンやヴァン クリーフ&アーペルといったブランドの作品は、日本でも高い認知度と人気を誇る。アンティーク・ヴィンテージ宝飾の需要が高まる近年の日本市場においては、こうした著名コレクションの分散が二次市場に新たな供給をもたらす意味でも注目に値する動きだ。
さらに、慈善家・社交界人物の個人コレクションというストーリー性が、作品の付加価値を高めるケースは世界共通のトレンドとなっている。日本国内のオークションハウスやジュエリー商においても、「誰が所有していたか」というプロヴェナンス(来歴)を重視する傾向は今後さらに強まると考えられる。
まとめ
ポーリン・カルピダスのジュエリーコレクションは、JAR、カルティエ、スザンヌ・ベルペロンをはじめとする宝飾史の名品が揃った、まさに「時代を超えた美の集積」だった。350万ドルのJARリングを筆頭に、70点に及ぶロットはいずれも高い芸術性と市場価値を兼ね備えている。こうした著名コレクションのオークション事例は、宝飾品における「プロヴェナンスの価値」と「デザイナーブランドの希少性」を改めて世界に示すものと言えるだろう。
元記事
Sotheby’s to Headline $3.5M JAR Diamond Ring from Philanthropist’s Collection(Rapaport)