AIとZ世代が業界を変える——AGSコンクレーブ2026、注目テーマを振り返る

米国宝石協会(AGS)が主催する年次カンファレンス「AGSコンクレーブ2026」では、人工知能(AI)の活用やZ世代顧客へのアプローチが主要テーマとして注目を集めた。ジュエリー業界が直面する変革の波を象徴するような議論が交わされ、小売店の未来像を見据えた実践的なセッションが多数開催された。業界全体のトレンドを俯瞰するうえで、示唆に富んだ内容が揃ったイベントとなった。

AGSコンクレーブ2026の全体像

フロリダ州オーランドで開催されたAGSコンクレーブ2026は、4日間にわたって教育セッションや授賞式、サプライヤーショーケースなど盛りだくさんの内容で構成された。AGSのCEOであるキャサリン・ボドー氏は、参加者数が好調であったと述べており、オンサイト参加者に加え、年次教育シリーズに事前登録した数百名もこのイベントに加わった。

なお、今回のコンクレーブは9月開催としては最後の回となる。次回2027年大会はミズーリ州カンザスシティにて5月2日から5日にかけて開催される予定であり、従来の春開催スケジュールへ回帰することが決まっている。長年にわたって親しまれてきた秋の風物詩的なイベントが節目を迎えた形だ。

今年の主要テーマとして挙げられたのは、AIの活用、天然ダイヤモンドのストーリーテリング、セキュリティ対策、鑑定評価、そしてZ世代への販売戦略など。新たな取り組みとして、時計に関するハンズオンクラスも初登場し、多彩なラインナップが会場を盛り上げた。

Z世代への販売戦略とAI活用の最前線

テクノロジーを活用した顧客体験の革新

「ジュエリー小売における20 Under 40から学ぶビジネスの未来」と題したセッションでは、Z世代が何を求めているかについて多くの示唆が共有された。フロリダの小売業者J.R. ダン・ジュエラーズのショーン・ダン社長は、ClaudeやPodiumといったAIツールを組み合わせることで、顧客フォローアップの自動化が実現できると紹介した。

特に注目を集めたのが「ブライダル・ウィッシュリスト・パーティー」という新しいコンセプトだ。婚約を控えた女性が恋人や友人と来店し、実際に指輪を試着しながらお気に入りをリスト化しておく仕組みである。これにより、プロポーズ時に男性側が指輪選びに迷う必要がなくなり、顧客満足度の向上にも直結するという。

「彼女が恋人や友人と来店し、リングを試着して気に入ったものを保存し、サイズも測っておく。いざそのときが来たら、あとは迷うことなく選べる」――ショーン・ダン(J.R. ダン・ジュエラーズ)

業界を取り巻く経済データの読み方

スタラー社の戦略分析担当バイスプレジデント、ハロルド・デュピュイ氏によるプレゼンテーション「変わりゆくジュエリー業界」では、業界の現状を示す複数の経済指標が紹介された。主要なデータポイントとして以下が挙げられた。

  • 消費者支出は、コロナ禍の給付金による特需が落ち着き、全体的に減速傾向にある
  • ジュエリー専門店は全国の店舗数の26%を占めながら、売上金額では約48%のシェアを持つ
  • ジュエリーは他のラグジュアリーカテゴリーを上回る成長を示し、大型量販店からシェアを奪いつつある

こうしたデータは、専門店がブランド力と接客の質によって大型店との差別化を図れることを示しており、日本の独立系ジュエリー小売店にとっても参考となる視点だ。

高まる防犯意識——GPSトラッカーの活用事例

ジュエラーズ・セキュリティ・アライアンス(JSA)のスコット・グジンスキー氏とジュエラーズ・ミューチュアルのハワード・ストーン氏によるセッションでは、組織的な小売犯罪への対策が議論された。近年、ジュエリー店を標的にした計画的な窃盗事件が増加しており、業界全体での対応が求められている。

実践的な防犯策として紹介されたのが、アップル社のAirTagなどGPSトラッカーを宝石保管庫や商品に仕込む手法だ。盗まれた商品の位置追跡が可能となり、犯人の逮捕と商品の回収につながった事例が報告されている。

「優れたGPSトラッカーを使えば、犯人の逮捕、財産の回収、そして起訴へとつながる」――スコット・グジンスキー(JSA)

日本市場への示唆

AGSコンクレーブで取り上げられたテーマは、日本のジュエリー業界にとっても決して対岸の火事ではない。Z世代(1990年代後半〜2000年代生まれ)が消費の主役へと台頭しつつある中、日本の宝石店もこの世代の価値観や購買行動への対応を迫られている。SNSを通じたブランド体験の共有や、デジタルを前提とした接客設計は、国内でも急務の課題といえる。

AIツールの活用についても、顧客へのフォローアップ自動化や在庫管理の効率化など、中小規模の独立系ジュエリー店でも導入できる場面は増えている。ブライダルジュエリーのカテゴリーでは特に、婚約指輪選びにおける「体験のデザイン」が競争優位につながるという視点は、日本市場においても大いに参考になるだろう。

また、防犯対策という観点では、日本国内でも高級宝石店への窃盗事件が報告されており、テクノロジーを活用したセキュリティ強化の重要性は高まっている。GPSトラッカーの活用は、比較的低コストで導入できる現実的な選択肢として検討に値する。

まとめ

AGSコンクレーブ2026は、AIの実装、Z世代への販売戦略、セキュリティ対策という3つの柱を中心に、ジュエリー業界が今まさに向き合うべき課題を正面から取り上げたイベントとなった。テクノロジーと人間的な接客体験をいかに融合させるかというテーマは、米国に限らずグローバルなジュエリー業界の共通課題でもある。次回の春開催に向けて、どのような議論がさらに深化していくか、引き続き注目したい。

元記事

AI, Gen Z Are Hot Topics at AGS Conclave(Rapaport)