ラスベガスで開催されたJCK 2026において、ラパポート社が「State of the Industry Breakfast」を実施し、天然ダイヤモンド業界の新たな方向性を示した。AI活用プラットフォームの刷新、ラボグロウンダイヤモンドへの明確な姿勢、そして「ヴェブレン財」としてのダイヤモンド再定義という三本柱は、世界の宝石業界に大きな波紋を広げている。
テクノロジー主導のエコシステムへ——RapNetからRapaport Tradeへ
ラパポート社CEOのダン・マノ氏は、地政学的な混乱や合成ダイヤモンドをめぐる市場の混迷など、過去1年間にわたる激しい変動を率直に認めたうえで、同社が「ダイヤモンド価格の権威」から「プロダクトファーストのテクノロジーエコシステム」へと進化する方針を明確にした。従来のプラットフォームであるRapNetは「Rapaport Trade」へとリブランドされ、検索機能・価格インテリジェンス・チャット機能を一体化した統合環境へと生まれ変わる。
特に注目を集めたのが、天然ダイヤモンドのデータで学習させた業界特化型のAIツールだ。バイヤーの予算に合った在庫のマッチングや、市場動向の複雑なクエリへの即時回答など、これまで熟練アナリストが担っていた業務を大幅に効率化する可能性を持つ。
「私たちが構築しているのは、ダイヤモンドの在庫・価格履歴・取引行動・検索データに直結したAIです。汎用AIではなく、天然ダイヤモンド産業のために特別に構築されたAIです。」——ダン・マノ(ラパポート CEO)
実務を変えるRapaport Tradeの新機能
CROのジェレミー・ワーブロウスキー氏が紹介した実装レベルの改善も見逃せない。新しい検索アルゴリズムは最安値優先の表示から「ベストマッチ」方式へと切り替わり、優良な商品が適正な露出を得られる設計になっている。また売り手向けには以下の新機能が追加される。
- **Inventory Pricing Management**:保有在庫をライブ市場価格とリアルタイムで比較できるツール
- **Seller IQ**:バイヤーがどの商品に関心を持っているかをLinkedInのプロフィール閲覧機能のように可視化する機能
- **Rapaport Polaris**:価格トレンドと市場シグナルを提供する内部インテリジェンスツール
天然ダイヤモンドを「ヴェブレン財」として再定義する——マーティン・ラパポートの提言
会長のマーティン・ラパポート氏は、業界が直面している根本的な問題を鋭く指摘した。金価格やS&P500が大きく上昇するなか、ダイヤモンド価格は約48%も下落しているという現実だ。氏はこの「底値競争」の連鎖を断ち切るため、天然ダイヤモンドを「ヴェブレン財」として再位置づけすることを強く訴えた。
ヴェブレン財とは、価格が上がるほど需要が増す高級品のことで、ロレックスやエルメスがその典型例とされる。希少性と高価格が「欲しい」という心理を刺激し、ブランドの権威を高める。ラパポート氏は、天然ダイヤモンドがまさにこの特性を持つ商品であり、価格を下げることでその魅力を自ら損なっていると主張した。
今後25年間で、105兆ドルもの富がX世代とミレニアル世代へと移転するとされており、高級宝石市場にとって前例のない規模の商機が到来しつつある。
さらに同社は「Green Source Initiative」を通じて、産地の地域コミュニティに貢献する倫理的な採掘ダイヤモンドの認証・追跡にも注力する方針を示した。社会的インパクトを「究極の贅沢」として訴求することで、消費者の価値観と天然ダイヤモンドの物語を結びつけようとする試みだ。
日本市場への示唆
今回のラパポートの発表は、日本の宝石・ジュエリー業界にとっても示唆に富む内容だ。日本市場においても、ラボグロウンダイヤモンドの台頭を背景に、天然ダイヤモンドの価値訴求が難しくなりつつあるという声は少なくない。「価格で競う」から「物語と希少性で魅了する」という転換は、日本の高級宝飾品市場にも十分応用できる視点だろう。
また、団塊世代からその子世代への「相続」という文脈での富の移転は、日本でも現実のテーマとなっている。アンティークや遺産ジュエリーの鑑定・再流通に関するニーズが高まる中、エステートジュエリーの真贋確認や適正評価を支援するプラットフォームの重要性は、日本市場でも増してくるはずだ。さらに業界特化型AIの概念は、国内の鑑定士や専門業者にとっても、将来的な業務変革の方向性を考えるきっかけになる。
まとめ
ラパポート社がJCK 2026で打ち出した戦略は、単なる自社リブランドにとどまらず、天然ダイヤモンド業界全体への問いかけでもある。価格下落の連鎖を断ち切り、AIと倫理的調達と富の移転という三つの潮流を味方につけることで、天然ダイヤモンドを真の高級品として再確立できるかどうか——その答えはこれからの数年間で明らかになっていくだろう。業界の動向を注視しつつ、日本の宝飾業界もこの変化を「外からの話題」ではなく、自らのビジネス戦略に落とし込む視点を持つことが求められている。
元記事
WATCH: Rapaport Breakfast @JCK(Rapaport)