リシュモン、LVMH、ケリングといった大手ラグジュアリーグループのジュエリー部門は好調な業績を続けている一方、ダイヤモンドの中流通業者(ミッドストリーム)はその恩恵をほとんど受けられていないという現実がある。なぜブランドの成功はサプライチェーンの上流へ波及しないのか。ラパポートが発表したレポート「The Brand Divide」は、この業界構造の断絶に正面から向き合った内容として注目を集めた。
好調なジュエリーブランドと苦境のダイヤモンド流通——なぜ乖離が生まれるのか
ここ数年、カルティエやヴァン クリーフ&アーペル、ティファニー、ブルガリといった高級ジュエリーメゾンは、ラグジュアリー市場全体がファッションや革製品の分野で伸び悩む中でも、安定した成長を見せてきた。親会社の決算発表においてもジュエリー部門はたびたび「成長エンジン」として言及されており、その存在感は近年ますます高まっている。
ところが、同じ期間にダイヤモンド研磨石の価格は大きく下落し、製造業者は生産量を削減、多くのディーラーが採算確保に苦しむ場面が見られた。世界有数のダイヤモンド購買力を持つブランドが好調であるにもかかわらず、なぜその恩恵はパイプラインを通じて上流へ届かないのか——これがレポートの核心に据えられた問いである。
カルティエ、ヴァン クリーフ&アーペル、ティファニー、ブルガリは世界で最も影響力のあるダイヤモンド購買企業に数えられる。それでもなお、その成功がサプライチェーン全体に波及しないのはなぜか。
ブランドの調達構造が生む「壁」
レポートによれば、この乖離をもたらす要因は単一ではなく、複数の力が絡み合っているという。大きく分けると、以下のような観点から分析が行われている。
- メゾンが販売している商品の性質(デザイン性・ブランド付加価値の比重が大きく、石そのものの価値が価格に直結しにくい)
- ブランドの調達方法(限られたサプライヤーとの長期的・排他的な関係)
- ブランドとサプライヤーの間の力関係(交渉力の非対称性)
特に注目されるのは、トップブランドへの直接供給を担う企業が業界全体から見ればごく一握りに限られている点だ。こうした選ばれたサプライヤーだけがブランドとの取引窓口を持ち、多くの中流通業者はそのメリットを享受できない構造になっている。
パリのジュエリーメゾンとスイスの時計メーカー——異なる調達ニーズ
レポートはさらに、ラグジュアリーセクター内部の多様性にも焦点を当てている。パリのジュエリーハウスとスイスの高級時計メーカーでは、ダイヤモンドに対するニーズや調達スタイルが大きく異なるという。ジュエリーメゾンが大粒・高品質のセンターストーンを重視するのに対し、時計メーカーはメレーダイヤモンドや特定サイズへの需要が中心となる場合が多い。
また、強いジュエリー販売がかならずしもポリッシュダイヤモンドへの需要増加を意味しないという点も指摘されている。ブランドの製品においてはデザインや職人技術、ブランド名そのものへの付加価値が大きく、石の購入量が売上高に比例して増えるわけではないのだ。
日本市場への示唆——ブランド依存と国内流通の課題
日本においても、カルティエやティファニーなどの外資系ラグジュアリーブランドは引き続き高い人気を誇っており、百貨店やブランド路面店での売上は底堅い推移を見せている。しかしこの「ブランド・ディバイド」の構造は、日本の独立系ジュエラーやダイヤモンドディーラーにとっても決して他人事ではない。
国内のジュエリー小売市場では、ブランドジュエリーへの消費集中が続く中、無名の良質なダイヤモンドが適正な評価を受けにくい状況が続いている。ポリッシュダイヤモンドの国際的な価格低迷は輸入コストという側面ではプラスに働く可能性があるが、在庫の評価損や市場の先行き不透明感は中小規模の業者に重くのしかかる。
また、日本市場特有の消費者心理として「ブランドの箱」への信頼が根強いことも、ダイヤモンドそのものの価値訴求を難しくする一因となっている。業界全体として、ブランド価値に依存しない形でダイヤモンドの品質・希少性を消費者に伝えるアプローチが、今後ますます重要になってくるだろう。
まとめ
「ブランド・ディバイド」というレポートが浮き彫りにしたのは、ラグジュアリーブランドの好業績とダイヤモンド流通業者の苦境が並立するという、業界の複雑な構造的断絶だ。ブランドの成功はサプライチェーン全体に自動的に波及するわけではなく、調達構造・力関係・商品の性質という複数の要因がその流れを阻んでいる。
ダイヤモンドの中流通業者が持続的に利益を確保するためには、トップブランドの購買動向を分析しながら、自社が対応できる市場セグメントを的確に見極めることが求められる。ラパポートのレポートが示すデータと分析は、そのための重要な指針となるだろう。
元記事
Rapaport Intelligence Report: The Brand Divide(Rapaport)